2003年6月1日日曜日

現代の欲望の総体は何処へ 2003.6.X 初出

きっとその時代の欲望の総体の
流れをつかむ事ができれば
ビジネスチャンスをゲットできる
のでしょうが
現代日本ではその欲望の総体が
何処へ向かっているでしょう。

商売人はものが売れないと嘆いているし
政府は雇用を生み出す新産業を
求めているし
とにかく景気がよくなってくれないと
困る、という人も多い。
でも単純に考えて
欲望が発生しなければ
マネーは動かないわけです。
で、そのマネーの流れを見てみると
世界一の貯蓄大国は相変わらずで
誰も金を使わないから
ジリジリとデフレが進む。
サイバーレボリューションの
エッセイでも書きましたがIT技術が
さらにそのデフレを加速していて
不良債権の額面ばかりが増えていく。
では現代日本人の欲望の総体の流れは
貯蓄に向かっているという事だろうか。
いくら貯金好きな国民であっても
欲望の対象が貯蓄のわけがないはずです。
それは守銭奴というものでしょう。
要は欲望する対象がないのではないでしょうか。
簡単に言っていまえば欲しいものがない。

五十代くらいの人に話を聞くと
かつては誰もが豊かなアメリカンライフに
憧れていて、マイホームに自家用車
かわいいペット、というアメリカの
ホームドラマキッドとでも呼べそうな
ものに欲望の総体が向かっていたとの事です。
それで住宅、不動産、自動車産業が
栄えたのだ、と。
ローンを組んでもそれらをみんなが
欲しがったので、それで経済は
回っていた、と。
でも最近の若い人達の中には
別にアパート暮らしでいいし
ローン組んでまで自家用車を
持たなくてもいい、という人も増えてきました。

豊かなアメリカンライフをほとんどの人が
達成してしまったのでそれらが欲望の対象で
なくなり、今度は欲望の総体が
カツラとか美容整形とか脱毛とか
箱物ではなく自分自身のボディを磨くことに
向かい始めたのだろうか、と僕は思いました。
TVCMの影響で禿げは駄目、デブはだめ
ブスは駄目という強迫観念が社会に
一時形成された事がありましたが
それでローンを組んででも整形したり
脱毛したりする人が増えたような気がします。
美容整形医は相当儲かったらしいです。
そういったコンプレックス産業が
儲かる社会というのは
理想的とは言えないかもしれませんが
ザ・資本主義な世界なので
それも仕方ないとは思います。

で、今度人体改造にも飽きた人々の
欲望の総体が、やっぱり人間はハートでしょう、と
いう事で、癒し系商品、に向かったのでしょうか。
癒し系という言葉が一時溢れていました。
でも、癒しとか、癒される、とういうのは
欲望なのだろうか? 
そこには癒されたい、という欲求は
感じられますが、欲望というニュアンスとは
ちょっと違う気がします。
欲望というのはもっとギラギラしていて
動けなくなるまで旨いものを食ってみたいとか
キャデラックを乗り回したいとか
異性とやりまくりたい、というような
内容である気がします。
もしかしたら、贅沢な悩み、というエッセイでも
書いたように、マズローの欲求段階説の通りに
人々の欲望の総体が上昇し始め
いい家に住んだりいい車に乗ったりすることや
旨いものを食いまくったり、セックスしまくることに
魅力を感じなくなっている人が増えているのかも
しれません。最も基本的な欲望である性欲まで
なくなってきたのか、最近はセックスレスという
話も聞くようになってきました。
欲望の総体は上昇するところまで上昇してしまい
マズローのいう最終段階の欲求
自己超越のレベルまで欲望の総体が
至ってしまったのでしょうか。
そうだとしたらもう何を作っても
生活必需品以外は売れるわけがないと思うのですが
どうなのでしょう。
だってもうみんな悟りたがっているのだから。

以上長々と欲望の総体の流れを追ってきましたが
さて、現代のビジネスチャンスは何処にあるのでしょう。
政府は雇用を生み出す新産業を求めて
いるのに、人々の欲望の総体は悟りを求めている?
誰も何も欲しがっていないのに
何の産業を興せばいいのだろう。
それとももしかして人々の欲望を燃料にして
回転してきた資本主義のシステムが
早くも限界をきたしているのでしょうか。
共産主義の崩壊から15年で資本主義も
デッドエンド?
人間の欲望は無限だと思われて
いたのが意外と人類は淡白だった、と
いうことだろうか。

日本人の欲望の総体は、これが欲しいとか
これが食いたいという低次のものから
生きがいとか、やりがいとか、自己承認とか
自己超越へと向かっているような気が
しますが、それらは中々産業社会とは
両立しないもののような気がします。
それらの欲望の総体を政府が吸収し
さらに財政赤字もチャラにし
供給過剰の経済から需要を創出し
さらに若年層の失業問題も
一挙に解決できるウルトラCとなると
それは戦争しかない、という事に
なってしまいます。
ああ、ナムサン、ナムサン……と
僕は溜め息が出てきました。
近代国家というものは、やはり定期的な
戦争を必要とするものなのだろうか、と。

僕は政治家にはあまり多くを期待しない方が
いいような気がしてきました。
頼むから余計な事はしないでね、という感じがします。


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