2003年9月1日月曜日

ゴキブリホイホイ(2) 2003.9.X 初出

ゴキブリホイホイ使用方法欄。

曰く。
ゴキブリさんが入り込みたくようなハウス形の
ボックスを築き、入口にゴキブリさんの
足ふきマットを設置する。
足ふきマットで足元の油分、水分を
吸い取られてからハウスに入り込んだ
ゴキブリさん達は、ホイホイハウスの
強力粘着シートに手足や体を
のめり込ませ、もがけばもがくほど
身動きができなくなる……そうであります。

ホイホイハウスの中心部に設置した
エビ、野菜などの匂いがする強力誘引剤で
ゴキブリさん達はスイスイ寄ってきます。
物陰や壁など、一度に数箇所に設置して
一挙に捕獲して下さい……との事であります。

おお、なんと人類は残酷な生き物なので
ありましょう。
自分の快適な生活のためには
一生物種を生き残る事のないように
根絶やしにしてしまう事も辞さない。
人類とは、なんと業深い存在なので
ありましょう。
僕は人類が地上の王者となるまでに
費やしてきた、5000年の業深い月日の流れに
思いを馳せました。
人類はきっと、こうした自然や動植物を手なずける
努力を5000年以上にわたって繰り返し
地上の王者となったのです。

ゴキブリホイホイを中世の人に見せたら
きっとその人は、神、と崇められる事でしょう。
僕達人類は、神を含む大自然、に挑戦し続け
ついにゴキブリホイホイを近所の薬局で
買える段階に至ったのであります。

だがしかし、ゴキブリさん達の生命力は
並大抵のものではありませぬ。
彼らはこれほど人類に忌み嫌われる存在で
ありながら、今日の今日まで悠久の時を
生き抜いてきた地上のシーラカンスであります。

僕は人類の英知の結晶であるゴキブリホイホイを
台所の棚の奥、合計7箇所に仕掛けましたが
最新科学兵器を持って他国の罪のない人々及び
街、自然に対して武力攻撃を加える
アメリカ国防総省のようで、なんだか心が痛みました。
仕方がない。
僕は毎晩ゴキブリさんが出没するような部屋には
住みたくありません。
それにゴキブリさんと話し合っても時間の無駄です。
彼らはどうしても僕とは共存できない存在なのだから
ゴキブリホイホイで駆除してしまうしかないわけです。

嗚呼、これでは自分達に都合の悪い
タリバン政権とフセイン政権を
最新兵器で崩壊させ、フセインの息子を
確かに殺しました、などと発表して
喜んでいるアメリカ国防総省と全く同じ
論理ではないか。
おお、僕達人類は、結局自分に都合のよいようにしか
考えられない罪深い存在なのではないのか。

ゴキブリ達よ、許せ。
僕は聖人ではないのだ。
イエス・キリストのように、右の頬を打たれたら
左の頬を差し出せ、などという芸当は
僕にはできない。
ゴーダマシッダルダのように虎に自分の体を
食べさせるなどという芸当は僕にはできない。
僕は君達が毎晩床をゴソゴソするような
部屋には住みたくない。
僕は君達とはどうしても共存する事はできない。

台所の棚の奥に
三日以内に立ち退け
さもなくば駆除する、などと
張り紙を貼っても君たちには通じないだろう。

だから僕は今日ここに
己の罪深さを自覚しつつも
ゴキブリホイホイを台所の棚の奥
合計7箇所に仕掛けたのだ。

嗚呼、僕は何と言えばいいのだろう。
嗚呼、僕は何を思えばいいのだろう。

何日か経てば、ホイホイハウスの中に
ゴキブリさん達の死骸が山と築かれることだろう。
そして僕はそれを望んでいる。
おお、これでは自分達の都合の悪い存在を
抹殺してしまえ、というホロコーストの論理と
全く同じではないのか。

嗚呼、僕は何と言えばいいのだろう。
嗚呼、僕は何を思えばいいのだろう。

僕がいつか大金持ちになったら
乱開発で禿山になってしまった場所に
駆除されたゴキブリさん達への贖罪として
たくさんの木を植えよう。

その植えられた、木、が
アニミズム的宗教の本質なのではないか、と
僕は今思った。

というわけで僕は
我が家の台所の棚の奥
合計7箇所にゴキブリホイホイを
仕掛けたのであります。

さて、その結果や、如何に。


ゴキブリどもよ、
人間様をナメるなよ。





註、ゴキブリホイホイの使用方法欄の文章は
  多少デフォルメされております。


-ゴキブリホイホイ(完)-